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アサヒビールの体験型マーケティング戦略 -消費者体験を軸にしたブランド価値の強化-

最近、アサヒビールが展開する複数の施策の記事に目を通したのですが、どれも「ただのビールを売る」ことから一歩進み、「消費者体験を通じてブランド価値を伝える」点に共通していることに気付きました。この記事では、アサヒが取り組んでいる体験型のマーケティング戦略を3つの事例に分けてご紹介し、消費者にどのようにブランドを浸透させているかを解説していきたいと思います。

消費者体験を重視したアサヒビールの戦略的アプローチ

日本のビール市場はここ数年で大きな変化を迎えています。消費者の嗜好が多様化する中で、単なる「おいしさ」や「価格」だけではなく、いかに特別な体験を提供するかが、ブランド価値を左右するうえで重要となっています。アサヒビールは、この「体験価値の提供」をマーケティング戦略の中心に据え、ブランドごとに独自施策を展開することで、消費者とのエンゲージメントを強化しています。

特に注目すべきは、「アサヒ ザ・リッチ」、「エクストラコールド」、そして「アサヒ生ビール」の3つの施策です。これらは、異なる消費者層に向けた独自のアプローチを採用し、「体験」を通じて商品価値を伝える点で共通しています。今回は、アサヒが実施しているそれぞれの戦略について深掘りし、どのように消費者の体験を通じてブランド価値を強化しているかを見ていきます。

戦略1. 「アサヒ ザ・リッチ」:ノンアル市場における高級感の再定義

施策背景

ノンアルコール飲料の市場は健康志向の高まりを受けて急速に拡大していますが、消費者の多くは依然として「物足りなさ」を感じています。これまでのノンアルビールは、アルコール飲料の「代替品」としての認識が強く、ビール愛好者を満足させることはできていませんでした。アサヒは、こうした既存のイメージを一新し、ノンアル飲料を新たな「高品質な飲料」として市場に定着させることを狙っています。

内容

「アサヒ ザ・リッチ」は、濃厚な香りと味わいを追求し、アルコールなしでビール本来の風味を楽しめるよう設計されています。広告キャンペーンでは「妥協しない本格派」というメッセージを前面に打ち出し、消費者の高級志向に応えています。さらに、SNSキャンペーンや試飲イベントを通じて、消費者が実際に「リッチな味わい」を体験できる機会を提供しています。

結果と効果

「アサヒ ザ・リッチ」は既存のノンアル層だけでなく、通常ビールを飲む層にも選ばれるようになりました。消費者は、単なる代用品としてではなく、アルコールの有無にかかわらず「本物志向の飲料」として認識し、ノンアル市場でのアサヒの競争優位性が強化されています。


戦略2. 「エクストラコールド」の再活性化:季節限定イベントによるブランドの再認識

施策背景

「エクストラコールド」は、かつて人気を博した「氷点下のビール体験」を提供するブランドですが、一時的な流行に留まり、認知度の維持が課題でした。そこでアサヒは、季節ごとの体験型プロモーションを通じて、ブランド価値を再構築しています。

内容

アサヒは「エクストラコールドバー」を主要都市に設置し、期間限定で「氷点下のビール」を提供する体験型イベントを開催しました。特に夏季の「冷涼感」をテーマにした施策を通じて、消費者に「特別な季節体験」を提供しました。イベントでは、専用のサーバーを使用し、氷点下でしか味わえない飲み心地を強調することで、従来のビールでは得られない「季節の楽しみ」を訴求。

結果と効果

これにより、消費者は再び「エクストラコールド」の魅力を認識し、ブランドへの理解と愛着が強まりました。SNSや口コミによる話題拡散も促進され、特定の季節における購買意欲を喚起することに成功しています。


戦略3. 「マルエフカー」を使った全国展開型の体験戦略:消費者との接点を広げる施策

施策背景

「アサヒ生ビール」のブランドをさらに浸透させるため、消費者に直接体験してもらうことが効果的だと判断しました。しかし、全国展開するにはコストや時間の制約があ為、アサヒは「移動型体験イベント」という形式を採用し、各地で小規模ながらもインパクトのある施策を実施しています。

施策内容

「マルエフカー」を用いたイベントでは、来場者が実際にビールの注ぎ方を学んだり、プロフェッショナルの注ぎ方を体験することができます。また、イベント会場では限定のビールも提供し、訪れるたびに新しい体験が得られるよう工夫されています。

結果と効果

これにより、消費者は「アサヒ生ビール」のブランドを「ただのビール」ではなく、「自分だけの特別な体験」として認識するようになりました。全国で1000万人規模の消費者との接点を創出し、ブランドロイヤルティを強化することに成功しています。

 

まとめ:体験価値がもたらすブランド戦略の未来

アサヒビールは「消費者体験」を軸にしたマーケティング戦略を通じ、商品単体の価値を超えた「ブランド体験」を提供しています。このアプローチは、単なる商品訴求ではなく、消費者との長期的な関係を構築し、ロイヤルティを高めることを目的としています。

このように体験価値を重視する手法は、他の消費財やサービスにも応用可能であり、持続的なブランド構築に寄与すると考えられます。この取り組みから学べるポイントは、消費者に「体験を通じた価値」を提供することで、ブランドの魅力を深く浸透させることができる点です。これからも、多くの企業がこの手法を取り入れていくことが予想されます。

(参考記事:advertimes.com